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西陣織で「朽ち」を表現する新たな挑戦。Nishijin High Waist Corset Skirt & Parasol | renacnatta STORY

2023年4月29日、renacnatta(レナクナッタ)から、西陣織を使ったスカート「Nishijin High Waist Corset Skirt」と日傘「Nishijin Parasol」が発売されます。

京都で古くから続く伝統工芸である西陣織は、糸の状態で染めをほどこす「先染め」と、多様な織りの技術で紋様を表現する「紋織物」が最大の魅力です。

日本の代表的な織物として国内外から評価されている西陣織ですが、着物需要の低下によって衰退の一途をたどり“戦後最大の危機”に直面している現状もあります。

そんな西陣織の技術と文化を未来につなぎ、現代のライフスタイルに寄り添う機能性と西陣織の美しさをあわせ持つアイテムとして生まれたのが、今回のスカートと日傘です。

レナクナッタの思い描く生地を叶えてくれたのは、京都・西陣に工房を構える加地金襴の坂田雄介さん。

これまでほとんど例のない「綿糸で織った西陣織」は、織元である坂田さんにとっても、私たちにとっても未知の挑戦でした。

なぜ今、綿で織り上げた西陣織のアイテムを私たちが作ったのか。そして、それに共感してくださった坂田さんの思いはどこにあるのか。坂田さんが西陣織と向き合い続ける背景と共にお伝えします。

職人の姿に惹かれ、キャリアを捨てて西陣織の世界へ

今回生地の制作をした加地金襴株式会社は、古くからお坊さんが着る法衣を主に作ってきた、西陣にある織元です。鳳凰や草花などを立体的かつ色鮮やかに浮かび上がらせる織りの技術は、皇室の衣装にも使用されています。

そんな加地金襴に坂田さんが職人として入ったのは、30歳のとき。それまで働いていた建築業界からの、大きなキャリアチェンジでした。

「加地金襴は妻の実家で、義理の父には27歳のときに一度だけ『西陣織をやらないか』と誘われたことがありました。でも、当時は建築の仕事が一番楽しい時期で、まだ続けたい気持ちがあったため、一度お断りしました」

ですが坂田さんが建築の世界に入ったのも、ものづくりが好きだったから。『職人になるのも悪くないな』という気持ちもあったそうです。

決断をしたのは、それから3年後。決め手は、加地金襴の現場を実際に見せてもらったことでした。


加地金襴、機織り場の様子

仕事をする職人さんたちのかっこいい姿がとても印象に残ったんです。それに、誰かが継がないと加地金襴がなくなってしまうというのも気持ちが傾いた要因でした。妻に『西陣織、やろうかな』と話したら、『いつかやると思ってた』と笑われました。義理の父も同じように思っていたみたいです」

建築の分野でも納得のいく成果を残し、満を持して加地金襴の次世代を担う存在となった坂田さん。全く違う分野から西陣織の世界に入っていったことに対してこう話します。

「建築と織物で、共通する部分もたくさんあると思いました。建築設計には縦軸と横軸があって、織物にも経(たて)糸と緯(よこ)糸があります。どちらも立体でモノを捉えるので、イメージはしやすかったのかもしれません。さまざまな職人さんの力を借りてひとつのモノをつくりあげる工程も似ているなと感じます」

違う業界に飛び込み、大変な努力や苦労をすることも多かったのかと思いきや、建築業界との共通点を見つけながら「いろんな挑戦をさせてもらっています」と軽やかに語る坂田さん。今回のアイテムは、そんな彼の新しい挑戦のひとつとなっています。

高度な織の技術と色彩感覚が叶えた、「綿」と「朽ちた」表現

今回の「Nishijin-ori Collection」で目指したのは、イタリアの古い教会にあるフレスコ画のような「朽ちた」美しさです。それを西陣織の技術で表現し、さらに素材は夏でも軽やかに身につけることができる「綿」に──。

「大河内さんから『朽ちたようなデザイン』と聞いて、ぜひやってみたいなと思いました。西陣織は、織りで色彩と柄の華やかさを表現して『なんぼのもんじゃい』の世界です。でも、現代のファッションにそぐわない部分もあると思っていて。レナクナッタの思い描いている生地に、自分が考えていた西陣織の次のステージと近いものを感じたんです」

こうして、坂田さんと「西陣織の伝統的な手法で、これまでにない生地をつくる」という挑戦がはじまりました。

なかでも、坂田さんが最もこだわったのは紋紙(もんがみ)づくりでした。紋紙とは、実際に出来上がる生地の色や柄をドットで表現した指示書のようなもの。

「織っていくたびに経糸と緯糸を調整し、どんな見た目になるかを一つひとつ落とし込んでいくのですが、色数を増やしすぎると生地が分厚くなってしまうので、何度も試し織りをして……。このバランス決めは普段よりもかなり時間をかけました」

「Nishijin-ori Collection」の生地をよく見ると、場所や角度によって単色に見える部分や、何色にも見える部分があります。紋様も、立体的に見えたり消えているように見えたり。

「紋様自体はシンプルですが、糸の色は実は8色も使っています。『朽ちた感じ』を出すために意識したのは、印象派の油絵のような考え方です。たとえば、絵画はよく見ると同じ赤でもさまざまな色を使って描かれています。もともと絵画鑑賞が好きで、そのイメージが頭のなかにありました」

実際、アイボリーやブラウンを表現する中でピンクや水色の糸も使われ、それが見る角度によって浮かび上がってきます。その色の深みによって、まるで経年変化をして朽ちたような文様と色合いが見事に表現されました。

さらに今回は「綿」という、これまでの西陣織にはない素材です。坂田さんは、これをどんな風に捉えたのでしょうか?

「もともと、綿の西陣織にはいつか挑戦したいと思っていました。世の中にはいろんな素材が溢れているんだから、挑戦しないのはもったいないじゃないですか。それに、着物文化が衰退していくなかで、洋服の生地づくりにも力を入れていきたいと漠然と考えていたこともあります」

とはいえ、綿で織るのはほこりが出やすいため、作業工程では掃除の時間が普段の何倍も必要だったそう。

「ある程度織り進めたらほこりを除去しないと、機械がうまく動かなくなってしまいます。綿糸が通るところすべてに毛ぼこりが溜まっていくみたいな感じ。これは綿の西陣織がほとんどない訳だと思いました

また、シルクやポリエステルに比べて、糸が切れやすいのも綿の難しさ。そこで、織機のスピードを通常の半分にまで下げることで、ゆっくり丁寧に織りあげていきました。

今回は初の試みということで、試行錯誤しながら紋紙の作成から実際の織る作業まで全て一人でこなしたという坂田さん。

そして、坂田さんの細部にまでおよぶ気配りを感じられるのが、生地の「裏面」です。

試作段階から、できた生地は必ず屋外で日光にかざしながら裏面の見え方を確認していました。日傘として使われることってなかなかないですから。少し織り方を変えるだけで、光にかざすとこんなに違うんだという発見もありました」

一般的な西陣織は、多色の糸を使って織った場合、裏面は糸が飛んでいるのが普通です。しかし今回の西陣織は裏面までも楽しめる、糸の処理の細部にまでこだわった美しい仕上がりとなりました。

西陣織の未来を担う若手職人と贈る、初挑戦のアイテム

2020年の調査によると、西陣織の売上はコロナ禍の影響もあり「戦後最大の危機」と言われるまでに低迷しているといいます。(※西陣織工業組合「西陣生産概況」

西陣織の織元の数は現在約200社ほどだといわれていますが、西陣織組合内では毎月のように廃業の知らせが届くそうです。さらに、現在は機械の部品をつくることができる職人さんも少なく、残っている織元同士で争奪戦のように部品の買取が行われることも。

そんな危機的状況の中で、坂田さんのような若手で技術のある職人さんは、非常に稀有な存在であることは、言うまでもありません。

「西陣織の文化を引き継いでいくために手を取り合って全体で盛り上げていくには、まだまだ業界の体制が整っていないのが実情です。だから今回は、タッグを組んでものづくりをするといろいろな可能性が生まれることが実感できたし、本当に楽しくやらせてもらいました。

それに、これまで弊社のお客さんは基本的にお坊さんで、すべてがB to Bだったので、一般の方に手にとってもらえる初めての機会になります。今回のスカートと日傘がどんな風に普段使いしてもらえるのか、楽しみでしかないです」

私たちと加地金襴のものづくりの挑戦ははじまったばかりです。今回は、芸術作品のように繊細で奥行ある織物の美しさを再発見していただけるように、日常で「使える」アイテムに落とし込みました。

レナクナッタを通じて、伝統を守り革新を探求する職人さんの存在を一人でも多くの方に知っていただけますように。

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■加地金襴株式会社
公式サイトInstagram

取材・執筆:山越栞
取材・編集:吉田 恵理

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