renacnatta新章 | 着物Collectionへの挑戦と道のり、そして決意
renacnatta(レナクナッタ)代表の大河内 愛加です。
本日、レナクナッタから着物のコレクションを新たに発表しました!
この着物プロジェクトは、こうしてお知らせするまでに約3年の歳月がかかりました。伝統工芸の技術を活かして洋服などのアイテムを作ってきた私たちがなぜ今、着物なのか?しかもこんなに長い時間を費やして…と疑問に思った方も多いと思います。
そこには変わらず、「れなくなった」に命を吹き込む精神や、私がイタリアの暮らしで培ってきた美意識があります。むしろ今回のプロジェクトは、私たちが目指しているものづくりの延長線上に自然とあった挑戦だったようにも感じます。
とはいえ、ゼロからの着物づくりへの挑戦は平坦な道のりではありませんでした。完成までの葛藤や難しさ、それでもお届けしたかった価値と私の決意の源は一体何だったのか。少し長くなってしまいますが、renacnattaの新しい挑戦のストーリーを、お伝えできればと思います。
伝統ど真ん中への挑戦
これまでレナクナッタでは、さまざまな伝統工芸の職人の方々と共に、洋服や小物、ホームアイテムなどを制作してきました。伝統工芸を現代にマッチさせる試みに対して、多くの方から評価をいただき、ありがたいことにいくつかの起業家アワードも受賞することができました。
お客様からは、「敷居が高いと感じていた工芸品を、気軽に日常に取り入れられるようになって嬉しい」「知ることができて良かった」というお声をいただき、ブランドを運営する者として大変嬉しく思っています。
しかし、心の中でじわじわと湧き上がってきたのです。「伝統工芸の技術を今のライフスタイルに合わせるだけでなく、伝統ど真ん中で勝負をしてみたい。伝統工芸を最大限に活かした、まさに『着物』そのものを作りたい」と。
私は、一度「やってみたい!」と思ったら、まずは数日間頭の中で寝かせて、熱が冷めるかどうかを様子見するのですが、その時は熱は冷めず。大変な挑戦になることは目に見えていたのですが結局この思いを抑えることはできませんでした。
いちD2Cブランド経営者の私が着物業界に参入するなんて、怖すぎる!という気持ちでしたが、まずは着物を日頃から扱っている金彩職人・作家の上田奈津子さんに相談しました。
正直、2年以上前の話なので、奈津子さんに「着物を作りたいのですが……」と相談した時、何と返されたのかは覚えていません。ただ、「やるなら、京都の着物業界の人たちにも一目おいてもらえるような質とデザインでしっかりやりましょう!」と背中を押していただいたことは覚えています。そこから完成品の撮影の日まで、ずっと奈津子さんが側で伴走してくれました。本当に心強かったです。
振袖のもったいなさと、イタリアで学んだモノとの向き合い方
私は伝統の王道を踏襲した和装を目指しつつも、ただの着物にとどまらず、特別な価値を持たせたいと考えました。そこで思いついたのが、成人の日にまつわる式典で着ていただく「一生着られる振袖」というコンセプトです。
成人の日は多くの日本人女性が振袖を着る機会です。ですが次のような状況から、レンタルが主流になりつつあります。
・未婚女性が着る振袖は、人生で着る機会が限られる
・第一礼装なので高価
・特に、成人式の振袖は年齢を重ねた後に着づらいデザインが多い
その結果、購入する機会が少なくなり、生産が減少しているのが現状です。せっかく日本の伝統衣装に触れるチャンスなのに、それが購入体験につながらないのは惜しいと感じました。
しかし、成人式やその後に1〜2回しか着ない着物に数十万円、数百万円をかけるのは現実的ではないことも理解できます。そこで、振袖としての役目を終えた後も、袖を切ることで訪問着として長く愛用できるデザインの着物を作ろうと考えたのです。(そして既存のお客様は30代以上の方が多いので、同デザインで最初から訪問着になっているものも作ることにしました。)
この考え方は、2020年にリリースした「一生着られるウェディングドレス」と同じです。徹底的にこだわり抜き、自信を持って「本当に良いものだ」と言えるアイテムだからこそ、一過性のものではなく、その人の人生の大切な瞬間に寄り添い続けるアイテムでありたい、という思いを込めています。
この「一生着られる」という考えの根底には、私のイタリアでの生活が強く影響していると思っています。イタリア人は、美しいもの、本物、そして長く使えるものを尊重する文化を持つ人々です。
たとえばイタリアの冬。街中には毛皮のコートを纏った女性たちが溢れ、それが日常の光景となっています。毛皮を着ている姿は一見セレブのようにも見えますが、実際には、必ずしも彼女たち全員が裕福であるわけではありません。多くの場合、それらの毛皮は彼女たちが若い頃に購入したものであり、それを何年、何十年も大切に着続けているのです。
気に入ったものを丁寧に選び、本物を手に入れ、それを長く愛し続ける情熱。私はその姿勢に深く感銘を受け、ブランド運営の大切な土台となっています。
華やぎと静寂が共存するデザインができるまでの葛藤
そんな背景から、振袖を購入した方が年齢を重ねた時に、袖を切ることで訪問着として着続けられるデザインにしようと考えました。しかしこれがとても難しく、デザインの決定までに何か月もかかりました。
そもそも振袖の袖を切れば訪問着の形にはなりますが、一般的な振袖の袖を切ってみても、振袖の古典的な柄や華やかさから「それ、もともと振袖だったよね」とすぐに分かってしまいます。もともと振袖とは30〜40代、そしてそれ以降の方が着るのは難しいデザインなのです。
逆に、訪問着になることに重きをおいてデザインすると、今度はとても地味な振袖になってしまい、成人の日にまつわる式典はもちろん未婚女性の第一礼装にふさわしい配色や柄にはなりません。
振袖としても、訪問着としても美しく成立する、バランスの取れたデザインを実現することは非常に難しい課題でした。
奈津子さんが所属する金彩上田では、振袖への加工依頼が日々たくさんあります。そんな目の肥えた奈津子さんとそのお母様に「このデザインなら大丈夫!」と言ってもらえることが、私にとって進めていく上での大きな条件でした。普段は私一人でデザインを決定することがほとんどですが、今回は私一人が納得するだけでなく、和装に精通した方々も納得するものを作ることが大事だと考えていました。
今思えば、私が最初の方に提案していた振袖のデザインは、地味で、振袖としては今時かもしれないけど年齢を重ねた時に訪問着として着ると華やかさに欠けるものだったり、大胆な鶴柄などが訪問着としては着る人やシーンが不明確なデザインになっていたりしていました。
そうして約6か月もの間デザインが決まらない日々が続き、着地点を完全に見失ってしまいました。これは一度視点を変えなくてはと思い、友禅や金彩のデザインを考えるのをやめて、生地と向き合うことにしました。
もともと、知り合いだった丹後ちりめんの織元・田勇機業さんの生地を使うことは決めていました。(以前見学した際、そのこだわりに感動し…後日インタビュー記事が公開される予定ですのでお楽しみに!)田勇さんのところで見た生地を振り返っていた時、雲柄の生地を見せてもらったことを思い出しました。
その瞬間、「これだ……」と直感しました。着物を空に見立てて、空のうつろいを表現したグラデーションに仕上げたら、とても映える生地になるだろうと。この雲柄に手描き友禅で雲柄を足して、さらにその雲の輝きを金彩で表現できたら、非常に上品な仕上がりになるのではないかと。
すぐに奈津子さんに連絡したところ「すごくいいと思う」と即答をもらえました...!勢いに乗って、手描き友禅師の細井さんにも連絡したところ、「胡粉(ごふん)で表現する白い雲は、挿友禅の魅力と技術を最大限に活かすことができる(※)」と嬉しい回答が。
反物が決まった瞬間、引き染めのグラデーションのイメージ、挿し友禅と金彩、それぞれのデザインが一気に見えてきました。バラバラだったパズルが一気にカチッとはまった瞬間でした。
しかし、ここからもまた困難が続きました。ベースのグラデーションの色決めです。
※胡粉は"白"を表現するために古くから使われてきた顔料で、柔らかく美しい白色が特徴。今回は熟練の技術が必要な「胡粉ぼかし」という技術で雲を表現しました。
まだまだ続く、デザイン決定までの果てしない道のり
ここからは友禅の細井さんにもデザイン会議に参加してもらい、細井さんのストックの色見本から色を選びましたが、色数が多すぎて途方に暮れたのを覚えています。
色見本は小さなものなので、イメージをするのもすごく難しく。また、何日もかけて選んだ色も、見る時間帯や場所によって微妙に感覚が変わってしまったりということもありました。
最終的には職人のお二人が「これは絶対いい!すごく上品だ!」と言ってくれたものの、私は正直、もう何が良いのか分からなくなっていました(笑)。それでも、サンプルを作ってみることにしました。
サンプルが上がってきた時、その仕上がりは想像をはるかに超えるもので、選んだ色はいずれも非常に美しいものでした。引き染めの職人さんが手がけたグラデーションは絶妙で、パソコンで試したものとはまったく違う美しさにハッとしたのを覚えています。
その時ようやく職人お二人の自信の根拠が分かり、同時に経験の力を実感した瞬間でした。着物のデザインや色合いは、洋服とは異なる感性が必要で、これまでの自分とは違った感覚に出会えたような気がします。
そして、挿し友禅のデザインは、胡粉の白を貴重としながら、グラデーションの色も拾った柔らかい雲。こちらはスムーズに決まりました。
次に金彩です。どこに金彩を入れるか、どんな型を使うかという点も慎重に決めました。雲柄は古典柄とはいえシンプルなので、金彩の型で鶴や鳳凰など、おめでたい柄を入れることにしました。また、さまざまな技法を駆使していただき、雲の輝きを引き立てました。
こうして出来上がったのが、配色を変えた2種類の着物たちです。
ひとつは裾が紅からピンクに移り変わり、胸部分がブルー、肩が淡い黄色へと続くデザインです。夕焼けの空をイメージし、「黄昏」と名付けました。
もうひとつは裾が紫からイエロー、薄紫へと変わり、胸元がイエロー、肩へと緑が移ろうデザインです。朝焼けの空をイメージし、「暁」と名付けました。
レナクナッタではこれまで、一つのアイテムに一つの伝統工芸を取り入れるというものづくりをしてきましたが、今回の着物制作では、丹後ちりめん、引き染め、挿し友禅、金彩、和裁と、京都の職人さんの手仕事が結集しています。
そして今回何より嬉しかったのが制作に関わった職人さんたちが「これは本当にいいものができた」とそれぞれに言ってくださったことです。
作り手の見える化に、徹底的にこだわる
今回の着物制作でもう一つこだわった点は、作り手の「見える化」です。呉服屋や百貨店で目にする着物は、ブランド名や一人の作家名、あるいはプロデュースをしたタレントさんの名前が表に出ていますが、その陰には多くの職人さんたちの手仕事があります。
彼らの技と思いが、一枚の着物にどれだけ込められているかを、着る方にも感じ取ってほしい。そんな思いで、このプロジェクトを進めました。そのため、サイトにも写真とムービー(ページの最後に載せています)を掲載し、カタログの裏面も大きく使って、ものづくりにフォーカスしたデザインにしました。
今回の制作では、美しさと本物を追求しながらも、ただ美しい着物を作るだけでなく、職人の手仕事の魅力や価値を伝えることにもこだわりました。
そうして作られた着物は、成人の日など式典の振袖はもちろん、訪問着としても一生ものになるはず。振袖だけでなく最初から訪問着の状態でもお求めいただけるようにしています。
この着物を通じて、日本の工芸の素晴らしさや、ものづくりの尊さを感じ取っていただければ幸いです。関わってくださった全ての職人さんたちの思いが、この一枚一枚の着物に込められています。
新たな章の幕開け
この着物コレクションの発表は、レナクナッタにとって新たな章の幕開けであり、これまでの歩みを土台に、さらなる挑戦を続けていく決意の表れです。日本の伝統工芸を次世代へと繋ぎながら、時を超えて愛される美を追い求めていきます。
この一枚一枚の着物が、多くの方々にとって特別な存在となり、人生の大切な瞬間を彩ることを願っています。今後も、伝統と革新を掛け合わせた新しい価値を生み出すことに力を注ぎ、みなさまと共に新たな物語を紡いでいきたいと思います。
Special Thanks
最後にここまで(これからもお仕事は続くのですが)力を貸してくださった職人さん、プロフェッショナルの方々に感謝を申し上げます。
デザインの監修をしてくれた上田奈津子さん
同じくデザインの監修、そして挿し友禅を手がけてくれた細井智之さん
唯一無二の美しい生地を織ってくださった田勇機業さん
美しい引き染めを手がけてくれた高山染巧さん
金彩を施してくれた金彩上田の奈津子さんとお母様の京子さん
振袖用の帯を織ってくださった西陣織のリニスタさん
現場まで一緒にきてくださりムービー撮影・制作、そしてパンフレットも制作をしてくださったポーラーデザインさん
いつも素敵な撮影をしてくださるのですが今回もすごかった...渋谷美鈴さん
撮影時のさまざまなハプニングを乗り越え着付けをしてくれたRURIKOさん
コンセプトにぴったりあったヘアメイクを手がけてくれた児玉藍子さんとアシスタントの明尾美佳さん
振袖ではあどけなさを、訪問着では大人っぽさを見事に表現してくれたモデルのMAYUKAさん
撮影場所を提供してくださった大西常商店の大西里枝さん
現在進行形で広報支援をしてくださっているベンチャー広報さん
そして、PMとして販売開始までずっとサポートしてくれ、今も絶賛プロジェクト全体を動かしてくれているamuyaの吉田恵理さん
誰か一人でも欠けていたら実現しなかったこのプロジェクト。みなさんに心より感謝です。そして引き続きどうぞよろしくお願いいたします。