レナクナッタと伝統工芸。はじまりの「久留米絣」とその軌跡 | renacnatta STORY
「文化を纏う」をコンセプトとするrenacnatta(レナクナッタ)。そのブランド名は、使わ『れなくなった』ものに新たな命を吹き込むという思いから名付けられ、デッドストックの生地を使ったスカートをなどをお届けすることから始まりました。
そしてもうひとつ。将来、作ら『れなくなった』とならないよう、伝統工芸を継承する企業や職人さんたちとタッグを組み展開するコレクションの数々も、レナクナッタにとって欠かせない存在となっています。
スカートやバッグ、ジュエリー、ホームアイテム。伝統工芸の継承者と共に展開を広げてきたコレクション。その始まりとなったのが、福岡県南部に伝わる伝統的な綿織物、久留米絣を使った「Kurume-gasuri Collection」です。
アイテムを発表してから4年、今でも根強い人気を持つ久留米絣のコレクションが誕生したのは、イタリアから京都へと拠点を移した大河内が、伝統工芸に「普遍的な価値」を見出したことがきっかけです。何百年、何千年も前から続く価値を未来へつなげたいという思いがそこにはあります。
そんな思いを込めたチャレンジを共にしてくれたのは下川織物の3代目、下川 強臓(しもがわ きょうぞう)さんです。
地元で守られ続けてきた伝統技術。そして、下川織物の歴史のなかで生まれた「無地の絣(かすり)」がなければ「Kurume-gasuri Collection」は実現しませんでした。
発売以来、今でもみなさまに支持されているアイテムがどのように生まれたのか。コレクション誕生までのストーリーをお伝えします。
レナクナッタに、作ら『れなくなった』が加わった瞬間
福岡県八女市の下川織物は、約200年にわたる久留米絣の伝統を今に受け継ぐ織元です。工房へ足を運ぶ日はいつも快晴。太陽に照らされる糸の束と、下川さんのおおらかな笑顔が大河内を出迎えてくれます。
「使わ『れなくなった』をブランド名の由来とするレナクナッタとは、通ずるものを感じていたんです。久留米絣もまた、売れなくなった、作れなくなった歴史を持つ織物なので」
下川さんの積極的な情報発信もあり、国内はもとより世界からも見学者が訪れる下川織物。一方で、久留米絣も他の伝統工芸と同様に、需要減退や後継者不足の問題を抱える産業でもあります。
久留米絣の特徴は、糸を括ってから藍で染めて模様を描き出すこと。多くの伝統工芸がそうであるように、その技術は変わりゆく時代の波にもまれながら現代へと受け継がれてきました。
大河内にとって、そんな久留米絣は幼いころから親しみのある存在でした。上質なものを大切にする祖母もまた、久留米絣を好んでいたからです。
やがてレナクナッタをスタートした大河内は、SNSを介して下川さんと交流を深めます。やり取りを重ねた後、初めて工房へ足を運んだ大河内が目にしたのは、久留米絣が持つ普遍的な価値と手仕事の尊さでした。
青空に揺れる糸の姿も、機(はた)で反物が織られる光景も下川織物が産業を続けてきたからこそ、今ここにあるもの。
そのはじまりは遠い昔、自分たちの着物を作る工程で偶然できた染めムラに魅力を感じた人々の暮らしのなかにあります。糸を染める前に括れば、染めムラではなく美しい柄ができるのではないか。工房で日々繰り返される手仕事の多くは、当時の人々の試行錯誤により誕生したものです。
下川織物とタッグを組み、久留米絣が持つ価値を未来へつなげたい。使わ『れなくなった』過去を持つデッドストックから、このままでは作ら『れなくなった』未来が待っている伝統工芸へ、レナクナッタに、新たな『れなくなった』の視点が加わった瞬間でした。
「大河内さんからはブランドへの思い、未来へのビジョンを強く感じていました。レナクナッタが持つストーリーとの親和性を大切に、絣を織りあげています」
「Kurume-gasuri Collection」で展開するメインアイテムは、レナクナッタで立ち上げ当初から人気だったスタイルのリバーシブルスカートです。綿織物の久留米絣にあわせてイタリア製の綿生地を使い、互いに魅力を引き立て合うひとつのアイテムへと仕立てています。
「途絶えさせたくない」産地の思いが守った技術
「Kurume-gasuri Collection」で使うのは、伝統的な括り(くくり)の技術で柄を入れた絣と、近年新しく生まれた無地の絣のふたつです。
伝統的な久留米絣の柄は、染める前に糸を縛る括りの技術により生まれます。図案にあわせてあらかじめ糸を括り、染め、水洗いした後に糸をほどき乾かしてと、完成までにはおよそ30もの工程が必要です。
今からおよそ30年前、括りを担う「括り手」の存在が危ぶまれていました。職人の高齢化や後継者不足が原因です。
「このままでは久留米絣の伝統そのものが途絶えてしまう」。危機感を持った久留米絣産業は、産地全体でその存続へと乗り出します。
「個々で事業を続けるのは限界があると、組合が共同事業として久留米絣の生産を集約化したんです。新たな担い手が短期間で技術を習得できるよう、製図のプログラミング化や、括りの機械の開発にも取り組みました」
当時の苦労は大変なものだっただろうと、思いを寄せる下川さん。また、だからこそ久留米絣は今でも量産体制が維持できているのだと教えてくれます。
今では国内で久留米絣のみといわれる、絣の専用機器によって織られる生地。「Kurume-gasuri Collection」で展開するスカートも、その貴重な絣を使用したものです。その1つひとつに過去から今へと続く「途絶えさせたくない」という思いが込められています。
久留米絣の新しい歴史を作った、家族の挑戦
括りの伝統を受け継ぐ一方、レナクナッタでも採用している無地の絣など、新しい久留米絣への挑戦も。無地の絣は、時代のニーズが着物から洋服へと移り変わるなかで、下川織物が生み出したものです。
「絣が売れなくなり、このままでは廃業せざるを得ない時代でした。その前にもう一度頑張ってみよう。それでダメなら、諦めよう。父と祖父がそんな思いで織りあげたのが、括らない糸を使った無地の絣です」
糸を括らない絣は、当時「久留米絣ではない」と言われることもあったそう。ところが、洋服として使い勝手がよく、何より上質だった無地の絣は次第に「久留米絣」として周囲に認められていきます。
大河内が無地の絣を選んだのも、数々の工程から生まれる糸の表情、織りの繊細な技術、そして久留米絣が辿ってきた歴史をより感じていただきたいという思いから。
「いつの時代も、何かを残していくためには歴史を書き換える人の存在が必要です」
下川さんの言葉は、伝統工芸を今に寄り添う形でお届けし、未来へつないでいきたいというレナクナッタの思いに通ずるところがあります。
父と祖父の代から受け継がれ、下川さんの手によって届けられる無地の久留米絣。久留米絣の新しい伝統とその魅力も、レナクナッタのアイテムを通して感じていただければ嬉しく思います。
継続的なつながりが、伝統工芸の可能性を広げてゆく
久留米絣から始まり、多くの伝統工芸とのコレクションを展開するようになった今。それぞれの産業とのかかわりを1度きりで終わらせてはいけないと大河内は考えます。
いつも頭にあるのは、次世代へ引き継いでいけるようなポテンシャルのあるアイテムを、みなさまにお届けしたいという思い。
アイテムとみなさまとの間にあるストーリーも、その背景にある伝統工芸とのつながりも、未来へと続くものであってほしい。そのためにも、各産業との継続的なつながりは欠かせません。
「生まれ育った場所をなくしたくない」という思いから3代目を継いだという下川さんもまた、今では100年先、200年先を見据えたものづくりに取り組んでいます。
伝統を受け継ぎ、自ら歴史を書き換えてきた下川織物と、伝統工芸の普遍的な価値を未来へつなげたいと願うレナクナッタ。互いに感じる伝統工芸への思いを胸に、レナクナッタはこれからも、みなさまに喜んでいただけるアイテムを作り続けていきます。
取材・執筆:永田 志帆
撮影:澤田 久美子
取材・編集:吉田 恵理