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漆黒の深さに差し込む、イタリアの甘美。黒染めの伝統を纏うワンピース | renacnatta STORY

これまでrenacnatta(レナクナッタ)のコレクションは、西陣の織元や手描友禅の職人など、布を「織る」「描く」技術を持つ作り手とともにアイテムを生み出してきました。しかし今回は、初めて「染める」職人とタッグを組んだ洋服のコレクション「Kurozome Collection」を新たにリリースします。

今回誕生したのは、漆黒に染め上げたコットンのワンピース。取り外し可能な肩紐は、ワンピース本体と共布のブラックが標準仕様ですが、イタリアのシルクに付け替えることもできます。

創業当初からイタリアで買い付けを続けてきたシルクは、レナクナッタの代名詞とも言える素材です。全身が漆黒であるからこそ、視線が自然と集まる肩という場所にだけイタリアのシルクをあしらうことに意味が生まれる。日常の静けさの中に、ふとした瞬間色や光が差し込むように…それがこのワンピースにこめた、レナクナッタらしい文化の交差です。

パートナーとなったのは、京都・壬生に工房を構える京都紋付さん。黒染めを専業とし、創業から100年以上、ただひとつ、「黒」だけを追い求めてきた会社です。

Kurozome Collection

「黒を染める」とはどういうことなのか。その技術はどこから生まれ、どのように受け継がれてきたのか。そして、レナクナッタの新しいワンピースへとどう繋がっていったのか。京都紋付 専務取締役の荒川優真さんと大河内が、黒染めという伝統と向き合いながら辿り着いた思いと、「Kurozome Collection」が生まれるまでのストーリーをお伝えします。


工房に行ったら、黒が黒に見えなくなった

大河内は、日常的によく黒い服を着ます。レナクナッタのスカートに黒いトップスを合わせることも多く、手持ちの服の中で黒が占める割合はかなり高い。そんな大河内が、京都紋付の工房を初めて訪ねたときのことです。工房にある生地や服を目にした瞬間、自分が着ていたはずの黒がグレーに、青みがかって見えてしまった。「これが黒なんだ」と思い知らされるような、不思議な感覚だったといいます。

黒は、並べたときにこそ「質の差」が際立つ色です。「昔からお葬式の場などで、並んだ黒紋付の黒の違いが一目でわかる、ということがありました。それだけ黒は、深さや質を比べやすい色なんです」と荒川さんは話します。

着物の染め業界では、無地を染めるところと柄を染めるところが分かれており、さらに無地染めの中でも、さまざまな色を染める会社と黒だけを染める会社に分かれています。そして「黒」だけを染め続けてきたのが、京都紋付です。

その起点にあるのが、着物「黒紋付」になります。家紋を5箇所(両袖・左右の胸・背中)に入れ、漆黒に染めあげた黒紋付は、着物の中でもっとも格式の高い礼装とされています。天皇からの叙勲の場、横綱の綱取り式、婚礼や葬儀など、人生の重要な節目に纏われてきた、いわば「ハレの衣」。黒紋付は「お葬式の服」というイメージを持たれることも少なくありませんが本来、黒紋付は人生の晴れ舞台を包む最高礼装なのです。

かつて着物の生産が海外に移行していったとき、黒染めは「同じ黒が出せない」として国内に戻ってきたという歴史があります。技術の難しさと手間に加え、染めに適した軟水が豊富に湧き出る京都・壬生の地下水も、その理由のひとつです。昔から染め屋が集中してきたこのエリアで、京都紋付は今も地下から水を汲み上げ、黒染めを続けています。


卵白が落ちた朝、漆黒への道が開けた

京都紋付の「黒」には、独自の技術が宿っています。その名を「深黒(しんくろ)」、そしてそれを支える加工が「深黒加工」と呼ばれるものです。

長年、黒染めに使われてきたのはアゾ染料と呼ばれるもの。安価で深い黒が出せる一方、微量の発がん性物質を含むという問題があり、欧州ではいち早く禁止されました。京都紋付は、より安全な「反応染料」への切り替えを、国内でアゾ染料が禁止される前から自主的に不使用とする決断をします。

ところが、反応染料ではアゾ染料のような深みのある黒が出ない。では、どうするか。そこで生まれたのが、「深黒加工(しんくろかこう)」でした。これは、染めた生地に特殊な薬品を染み込ませ、光の反射を抑えることで、より深く沈んだ黒に見せる加工です。

このアイデアのヒントは、創業者である荒川さんの祖父が発見したものだといいます。ある朝、黒紋付を着て朝食をとっていたところ、卵白を着物に落としてしまったそうです。乾いた後も、その部分だけが黒く沈んで見え続けたのを見て、光の反射を抑えることで黒がより深く見えるという発想へと辿り着いたといいます。

「本当の話かどうかはわからないんですが」と荒川さんは笑いながら付け加えてくれましたが、黒だけを追い続けてきた会社にしか気づけなかった発見だったのではないでしょうか。

そんな京都紋付には、「御黒染司(おんくろぞめのつかさ)」という商標があります。かつて黒紋付が朝廷への献上品として扱われていた頃、本物の黒を染めることを許された者への称号に由来し、今もその名を屋号として名乗り続けています。100年以上にわたり黒だけを追い求めてきた会社が、その誇りをいまも体現しているような言葉です。

生地ごとに異なる「レシピ」も、技術の深さを物語っています。今回のワンピースに選んだのは、高密度のコットンサテン。光沢感があり漆黒と相性がいい素材ですが、シルクと比べて染まりにくいという難しさもあります。

「染料を生地に付着させた後、アルカリ性の液体で化学反応を起こして定着させるのですが、シルクとコットンでは使うアルカリの量が全然違います。生地へのダメージを最小限にしながら、いかに深い黒を出すか。その塩梅が難しいところです」

さらに、染め終わった後の「ソーピング」(余分な染料を洗い流す工程)も、やりすぎると染まった色が褪色してしまいます。どこで止めるか、その判断もまた、積み重ねた経験と技術によって支えられているのです。


着物がほぼ売れなくなった時代に、技術を生き延びさせる

黒紋付の黒染めが最も盛んだった1980年頃、京都紋付の染めの加工賃は月に1億円を超えていました。それが今では、月6万円ほど。「もう話にならないくらいのレベルで、着物の染めは減っています」と荒川さんは率直に話してくれました。

荒川さんが家業に入ったのは2014年のこと。新卒では広告・マーケティングを手がける会社に2年間勤め、結婚を機に入社を決めました。しかしそのタイミングは、会社がちょうど着物事業の大規模縮小を断行した時期と重なっていました。入社時に40人以上いた社員は、半年後には5人に。父親から「どん底も見ておいた方が、あとが楽だ」と言われながら、荒川さんは黒染めの仕事と向き合ってきました。

着目したのは、前職で身につけたブランディングの視点でした。「黒染めの価値をわかりやすく伝えることを考えた時に“歴史”だと思ったんです。1915年の創業から100年以上、ずっと黒だけを染めてきた。その一点を押し出していくことで、真っ黒にする技術がいかに深いものかを伝えられると思いました」

洋服の黒染め事業も、試行錯誤を重ねながら育ててきました。最初は自社ブランドのアパレル制作にも挑みましたが、いいものを作っても売り方がわからなければ在庫が積み上がるばかり。その経験を経て、「反物を預かって染めてお返しする」という着物のビジネスモデルを洋服に応用することで活路を見出します。

アパレルブランドの製品染めを受注するB2B事業、そして「K(KUROZOME REWEAR FROM KYOTO)」という一般向け染め替えサービスへと、事業はすこしずつ広がっていきました。くすみや汚れで着られなくなった服を黒く染め直す。そのサステナブルな発想は、時代の空気とも重なり、新しい需要を生み出しています。

「時代の流れを考えると、着物の需要が昔の規模まで完全に戻ることは難しい。でも、黒染めという技術は本物で、素晴らしいものです。この技術を現代の生活様式に合った形で届け続けることを考えていきたい」

伝統を、技術を生き延びさせることで繋いでいく。悲観するのではなく、今の時代に合った届け方を模索し続けること。静かに、しかし着実に、荒川さんはその道を歩んでいるように見えました。


漆黒という余白があるから、色が輝く

レナクナッタと京都紋付の最初の接点は、2021年頃にまで遡ります。大河内が「何か一緒に作りたい」と問い合わせを送ったことがきっかけでした。当時から構想はいくつも浮かんでは、生地との相性やデザインの兼ね合い、コストの壁などから、そのたびに実を結ばないまま時間が過ぎていきました。それでも「いつかきっと」という思いだけは途切れることなく、試行錯誤を重ねて5年以上。ようやく辿り着いたのが、今回のコレクションです。


肩口の紐は結び方のアレンジも、付け替えも可能。その日の気分に合う色で、肩口に色を添えて

黒は“背景”であり、“余白”である色だと大河内は言います。静けさや時間の重みを持った色だからこそ、そこにほんの少しだけイタリアンシルクが加わることで、日常に差し込む甘さや軽やかさが生まれる。漆黒があるからこそ、シルクの色がより輝いて見える。そんな思いが、このワンピースの設計の根底にあります。

肩という、人生の重さを象徴するような場所にだけイタリアのシルクを置く。日本的な静けさを軸足にしながら、美意識のスパイスとしてイタリアが寄り添う。「文化を纏う」というレナクナッタのコンセプトが、一枚のワンピースの中に凝縮された形です。

ワンピースの仕上がりを見た荒川さんは、シルエットの美しさと漆黒の凛々しさの中に、肩紐ひとつで印象がぐっと変わる面白さがあると話してくれました。「伝統工芸を手がける立場として、現代のいいものや価値観と組み合わせることで、私たちの技術の良さがより伝わると思っています。一緒にやれる相手がいてこそ、伝統工芸の継承に繋がる。改めてそう感じました」

最後に、荒川さんに黒の魅力を聞いてみました。「黒はどこの国でも愛される色です。その中で日本の黒染め技術は、世界で最も高いレベルにあると思っています。この技術を、これからも時代に合った形で届け続けていきたいと思っています」

京都紋付が100年かけて追い求めてきた漆黒と、レナクナッタが大切にしてきたイタリアの美意識。そのふたつが肩で交わる、「Kurozome Collection」。ぜひ黒に差し込む色彩を、あなたの日常に纏っていただけたら嬉しいです。

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執筆・編集:吉田 恵理
撮影:小黒 恵太朗

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