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「一生着られる振袖」の制作を振り返る | Craft Talks by Aika & Natsuko #1

新たに始まった「Craft Talks by Aika & Natsuko」。この連載は、renacnatta(レナクナッタ)代表・大河内 愛加と、金彩作家・上田奈津子が伝統工芸やものづくりについて、いつもとは違う視点で、すこし気軽にトークを繰り広げる企画です。

また、このトークはレナクナッタ公式Instagramで配信されたライブ配信を文字の形で残したものになります。実際の配信が気になる方は[こちら]からご確認ください。

第1回目は、新連載を始めることになった理由と、「一生着られる振袖」の制作裏話をお届けします。

「一生着られる振袖」の詳細はこちら


Introduce | Craft Talks がはじまります

あいか:今回から、金彩作家である上田奈津子さんと私がおしゃべりする企画が始まりました。

まずは、この企画を始める経緯についてお話します。レナクナッタでは、物を作るのと同じくらい発信に力を入れていて、ブランド立ち上げの時から私がSNSで一人で発信をし続けたりしてます。内容はお洋服のことや、デッドストックの背景、伝統工芸について、ものづくりや職人さんの想い、歴史、裏側にあるものも一緒に伝えることが大事だとすごく思っていて、発信に重きを置いてきました。

特にオウンドメディアを始めるようになって、より力をいれたコンテンツを発信しています。お客さまも、その物の価値を知る前と知った後では大きく変わるんじゃないかなと思っていて。そういった体験をしてもらいたいなという想いから、発信に力を入れてきました。

今までレナクナッタマガジンでは職人さんのインタビューや、私と文化に関わる人との対談記事、私自身が全部書くVoiceっていうシリーズなど、制作の一つひとつにかなり力を入れて、重みのあるコンテンツがどんどん生まれてきていました。一方で編集長と話していて、もうちょっと気軽に読める「軽いコンテンツが欲しいね」っていう話になって。そこで、「なつこさんとトークするのはどうですか?」っていう意見が上がって、それは私も面白いかもって思ってなつこさんに打診したところ、快くOKをいただきました。

なぜ、なつこさんなのか。その理由は2点あって、1つは、今までなつこさんといろんな金彩アイテムを出してきたことです。アクセサリーから始まり、ポシェット、リボンなどを作ってきました。一方で、インタビュー記事を作る時は「コレ」っていうアイテムの紹介と一緒にやるんですが、金彩はアイテムが多すぎるからそのタイミングを見失っていたところがあって。「なら、定期的にやってしまえばいいんじゃない?」となりました。

あとなつこさんが私のいろいろ関わっている職人さんの中でも唯一、友達始まりだったんですね。他の織元さんや職人さんもとても仲良くさせていただいているんですけど、みんなやっぱり仕事から関係が始まってて。でも、なつこさんと私は最初は友達だったんですよ。最初は本当にご飯行ったりお茶行ったりする仲で、私の初めての京都の友達でした。

今もご飯とか行って、お仕事の話から私の人間関係の悩みまで色々聞いてもらったりする仲なので、こういった対談は面白いんじゃないかと思いました。

対談のタイトルは「Craft Talks by Aika & Natsuko」。今後は金彩のアイテムのことも話したりするんですけど、クラフトって手仕事とかモノづくりとか、そういうもの全般について、私となつこさんが興味あるところを毎回お話しできたらと思っています。


ふたりの出会いは?

あいか:なつこさんとの出会いは2018年、ちょうど6年前ですね。京都で経営者やクリエイターが集まる立食パーティーでなつこさんと知り合いました。他の方とも繋がってはいるんですけど、こんなに仲良くなったのはなつこさんだけです。パーティーの後、なつこさんと祇園の餃子屋さんに行きましょうって言って、ビールと餃子を食べましたね。

なつこ:その時はまだイタリアと日本を行き来してる時かな。

あいか:ほぼイタリアベースでした。

なつこ:だから1回会うと次は何ヶ月後みたいな状態で、さらっとご飯食べて解散みたいな、それぐらいの会だったもんね。

あいか:そうそう。ご飯いったりお茶したり。でも何か一緒にやりたいと思いました。私はその時アクセサリーを作るっていう考えがあまりなくて。金彩が水に弱いっていうのも教えてもらってたから、スカートに金彩は使えないかな?と思っていたけど、その後アクセサリーが爆誕したんですよね。

なつこ:あれからずっと止まることなくアイテムが定期的に出ているので。

あいか:レナクナッタのお客さんも金彩も、なつこさんのこともとっても大好きなので。東京でお客さんに会っても「なつこ先生のアイテム素晴らしかったです」との声を聞きます。


「一生着られる振袖」制作の裏側

あいか:さて、今回は、2024年8月にリリースした「一生着られる振袖」を紹介したいと思います。

「一生着られる振袖」の詳細はこちら

この着物も、なつこさんに金彩の部分を手掛けてもらったんですけど、加えてデザイン全体の監修やアドバイスもしてもらいました。振袖は2色用意していて、裾が濃くなっています。この着物を作る上でポイントだったのが、柄ですよね。

なつこ:そうですね。最初は色というよりは柄から入りましたね。

あいか:鶴柄や宝尽くし柄とかをなつこさんに「こういうのはどうか?」って見せたんですけど全部「うーん」って全然首を縦に振ってくれなくって。振袖は未婚の女性の第一礼装というのもあって、バランスがすごく難しかった。今思えば流行りの振袖を見過ぎてたのかな。そうなると40〜50代で着にくいものになってしまうんですね。

そこで1回柄を一旦忘れて、生地を考えようとなりました。生地をお願いする先は、和装生地が得意な田勇機業さんに決めていて。前に洋服を作ろうと試したことがあったんですが、私が考えたデザインと生地の相性が良くなくて1回ポシャらせた経緯とかもあった織元さんです。でも、ものづくり精神が凄く素晴らしいところなので「作るならここ」と決めていました。田勇さんのところに何度か行かせてもらう中で、織りで雲柄を浮かびあがらせている生地を見て「これ着たい!」って思ったんです。

あいか:これだと地紋の強さがあるので、絵柄をそこまで入れずとも存在感があって振袖としても成り立つし、訪問着としても着られるんじゃないかと思いました。

なつこ:生地が決まって、次に色をグラデーションにするってなってからは、どんどん前に進む感じはありましたね。このグラデーション作りもなかなか困難で大変だったけど、でもやっぱりグラデーションの力が強いので、柄が少なくても成立しています。

あいか:生地が決まってから、手描き友禅の細井さんにも入ってもらって。細井さんが友禅の色見本を持ってきてくれるんですけど、ピンクだけで100色くらいある見本帳を持ってきてくれて、開いた瞬間にパニックになっちゃって。

なつこ:お洋服専門にしてる人って、最近の流行りのカラーが頭に思い浮かぶのが当然なので「くすんだ色ばかりで組み合わせると、年配者向けになってしまう」みたいなのをどう伝えるか、結構難しかったかな。

あいか:細井さんに話を伺った時にも同じ話題になりました。細井さんは「こういう色を選んだら綺麗」という全体像が見えているんですよ。私はそれがわからなかったので、非常に色選びが難しかったです。結局2人は私に選ばせてくれたんですけど「これいいよ」「そうそう」みたいな感じで導いてもらいました。

色選びはかなり苦戦したし、正直サンプルがあがってきた時点であんまり気に入らなかったら変えようって思ってたけど、仕上がってみたらとても綺麗なグラデーションができて。最初、フォトショップでグラデーションを見てましたが、デジタルだと色の絶妙な変化が見えないんですよね。

なつこ:確かに。職人さんがぼかしながらやってるので。

あいか:こんなにたくさんの色を使ったグラデーションだと、しましまになっちゃうんじゃないかと思ってました(笑)。

なつこ:そこがかみ合うのに時間がかかるんですよね。

あいか:でも結局すごくいい着物が出来上がって、たくさん着物を触っているおふたりの感覚は、経験によるものなんだろうなって。同じイエローでも場所によって全然違うし、下に重い色を置いて上は華やかに顔色良くして、計算し尽くされたものになってますよね。だからよくある振袖とは印象が全然違うけど、それに負けない存在感がある。

なつこ:光沢感のある生地というのも良いよね。

あいか:ちょっと使いにくい生地なので、織元さんには嫌がられるものですけど。1回本当に「この生地やめませんか」って言われたんですよ(笑)。

なつこ:確かに職人さんには「うっ」ってなるかもしれない。

あいか:私が「ごめんなさい絶対にこれがいいです、お願いします」って言ってこの生地にしたんですけども、田勇さんも仕上がった着物を見たときに「なるほど、これを選びたい理由が分かったし、こんなに活かしてくれてありがとう」って言ってもらえたことが凄く嬉しかったです。

なつこ:確かにこの光沢も華やかさのひとつですから。

あいか:全然首を縦に振ってくれなかったなつこさんに満足してもらえたのも嬉しいです。今回は、私一人が納得するデザインじゃなくて、なつこさんも細井さんも田勇さんも、関わってくれてる皆が「これはいい!」って思えるものを作ろうって思ってたので。そうしないと京都で着物を販売するってなった時に怖すぎるんで。

なつこ:怖いよね。

あいか:外から来た人間が伝統ど真ん中の着物を作った時に、間違ったものを作れないなと。

なつこ:職人さんって「こういうのを作りましょう」と言われてその通りに作っても、良いときもあるし悪いときもあるし。でも普段、そこに感想はあんまりなくって。でも、今回は職人みんなが「ああした方がいいんじゃない?」と、作り手の意見を落とし込んだからすごくいいものができたんだと思います。

あいか:確かに、独りよがりのアイテムじゃないですもんね。それで本当にここまでのものができたと私は思ってるのでそう言ってもらって嬉しいです。

なつこ:なかなか職人の意見が詰め込まれたものは、ないですね。

あいか:金彩の部分もすごく意見いただきましたね。型を置く位置や、作る途中で柄を足してもらったりとか。あと裏地の色も違っているんですよね。紫はオレンジ、ピンクの方は黄色です。とても綺麗ですよね。

なつこ:色は本当に上品さにこだわったから。一番難しいピンクも、生っぽくならないようにしたいなと思ってました。

あいか:そう、「生っぽいって何なんだ?」と。

なつこ:細井さんと私とあいかさんの3人で話してる時に、「このピンクは生っぽいな」って細井さんと私は言うけど、あいかさんが「生っぽいってどういうこと?」ってなりましたよね。ちょっと野暮ったくて、品がないというか。

あいか:今となっては分かります。ピンクって可愛らしくなりすぎたりするけど、これは歳を重ねても全然着れるピンクですね。

なつこ:濃いけど大人が着れるピンクですね。

あいか:でも華やかな感じで。絶妙なものができて、一番好きなピンクかもしれないです。コーラルっぽい。

なつこ:そうそうそう。ちょっとオレンジ味のあるピンク。
日本人になじみやすい色が出来たかな。赤も真っ赤ではなく、ちょっと深紅や紅みたいな赤ですね。「暁」の方もとても上品な紫になってます。

あいか:百貨店のバイヤーさんにもかなり褒めてもらって「80万円は安い」「若い人にも合います」と言ってもらいました。細井さんには「ここまでお金をかける着物が少なくなってきているので、とても良かった」と言ってもらっていたので、それをバイヤーさんがわかってくれたのが嬉しかったです。


撮影の裏話

あいか:あと、なつこさんに手伝ってもらったのが、着物の撮影ですね。

なつこ:小物が加わって完成の着物ですしね。

あいか:最初は撮影前に組み合わせを決めていこうと思ったんですけど。絶妙な色合わせもあるので、みんなで当日小物を持ち寄って、そこから当日選んで撮影しました。なつこさんと着付師さんの3人で決めて楽しかったですよね。

なつこ:そうですね。やっぱりこの着物の良いところは、いろんな色が付いてるから、どんな色のアイテムを付けてもそれなりになるという発見があったかな。

あいか:そうですね。 「黄昏」はピンク系だけど、水色も入っていたりするので、ブルーの帯や帯揚げ、帯締めを組み合わせても可愛かった。第1回目の撮影なので結構王道に寄せているけど、いろんな組み合わせが楽しめるので今後組み合わせを提案したいですね。

なつこ:組み合わせは結構悩むところなのかもしれないですね。着物屋さんで買う時って全部セットだったりするけど、「一生着られる振袖」はそうじゃないから、このアイテムはこっちで買おう、違うアイテムはあっちで買おうってなることもある。その時に悩まないようにしてあげたいですね。

あいか:帯も、白っぽい色とかしか合わないのかなと思いきや、黒ベースや濃い色も結構バシっと決まるというか。訪問着でも貫禄が出ましたよね。訪問着と振袖でヘアメイクもチェンジしたんですけど、全然別人になりましたよね。

なつこ:全然違う。あれは見ごたえがあった。

あいか:とても和やかな雰囲気で、良いものができたので楽しかったです。そんなこともありながら無事終わって。お披露目までに3年かかったんですよね。途中で柄決めが難航してたのもあったし、私が妊娠で全然動けなかった時もあったので。

なつこ:本当にすごいね。すごく未来の話をいつもしてるような気もしてたけど、良いものができた。私の母も職人なんですけど、グラデーションや光沢も含めて「すごく良い」って言ってました。先輩方がそう言ってくれるのが嬉しいですね。

あいか:嬉しいですね。

なつこ:何を買っていいかわかんない人っていうのは特に、これにしておいてくださいって思うくらい、どこに着て行っても恥ずかしくない物ができたよね。

あいか:見る機会を今後増やしていきたいと思いますし、羽織ってみたい方はぜひ試着会を予約していただければと思います。人生に1回のお買い物ですし、みなさんのタイミングでぜひ。

あと訪問着の地紋の色、これはもう私たちの傑作のグラデーションなので、これをおすすめしますけど、でもやっぱり入学式とかもうちょっと落ち着いた場で着られるような、薄い色が良いって方もいるかもしれないので、カスタムオーダーでも作らせていただきます。お安いものではないんですけど、自信をもって良い物と言える物が出来ました。

なつこ:「Craft Talks」は今後も、こんな感じでゆるくやりましょう。着物について私の希望を言うならば、コーディネートとか着るシーン、人生の中で何回着れそうかみたいな紹介をしていただけると初心者も嬉しいかなと。袴ともあわせられるよとか。

あいか:結婚式とかでも着れますしね。今後、そういったこともやっていきたいと思います。みなさん、ありがとうございました!

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