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「侘び寂び」を空間に纏わせる。西陣織を支える「焼箔」を再発見するホームアイテム | renacnatta STORY

renacnatta(レナクナッタ)のコレクションに、初めてのホームアイテムとして、伝統工芸「西陣織」に使われる素材のひとつである「焼箔(やきはく)」のアートパネルとマルチスタンドが加わりました。

引箔は、西陣織の帯などに織り込む上質な金糸をつくるために生まれた技術のこと。和紙に漆を塗り、金銀の箔を紙に貼り合わせて模様のようにしたものです。元来の用途としては、これをさらに約0.3mmの細さにカットして生地に織り込んでいくというもの。

この引箔の中でも、レナクナッタの大河内 愛加が惹かれたのは、和紙に貼られた銀箔に熱を加えて硫化させることで彩りをくわえる「焼箔(やきはく)」という表現技法でした。

手がけるのは、西陣で引箔を作り続けてきた西村商店の3代目、西村直樹さん。このコレクションが持つ、渋く深みのある表情は、西村さんの技術力がなければ叶いませんでした。

引箔の伝統技法を守りながら、現代に合わせたモダンな活かし方についても研究を重ねてきた西村さんだからこそ辿り着いた、焼箔の美しさ。この魅力を最大限に活かす方法を模索した結果、新たにホームアイテムに挑戦することとなりました。

大河内が魅せられた焼箔の新しい可能性と、Yakihaku Collectionが生まれるまでのストーリーをお伝えします。


西陣織に専念していた職人が、パリで感じた期待

これまでアパレルアイテムを中心に展開してきたレナクナッタですが、初めてのホームアイテムが生まれたのは、他でもなく焼箔の美しさに魅了されたことが大きな理由です。

西村商店さんの工房見学に伺った大河内は、その時目にした焼箔の「侘びた」ような渋い趣きに一目惚れ。「何か一緒に作りたい」と声をかけさせていただいたのがはじまりです。

3代目の西村直樹さんは、引箔の職人の中でも最年少という若さ。職人の数が減少している中、伝統的な技法を守りながらも、自社アイテムやデザイナーとのコラボレーションのほか、織元からの要望で新しい技法による引箔を生み出すなど、さまざまな取り組みをされています。

「職人になったのは、家業の仕事を見ていて、自分もこの店で仕事をやっていきたいと思ったからです。とはいえ、まずは西陣の織元さんに一人前の職人として認めてもらえたという自信がつくまで、5〜6年はひたすらオーソドックスな引箔に専念していました」

そんな西村さんがチャンスを感じたのは、パリに住む友人のもとを訪ねたとき。

自分が作った引箔を現地に持って行ったら、デザイナーさんや有名ブランドの方からも想像以上に反応がよくて。もしかしたら、この技術を色んなものに活用していけるかもしれないと思ったんです」

西陣織に使われている本来の引箔は、色漆などで着色した和紙に箔をのせ、一枚の平面に施すもの。しかしこの技術を応用すれば、木材や革、金属などの他の素材にも箔をのせることが可能です。

そこでパリから帰国した西村さんは、引箔を使った自社アイテムの制作や、インテリアのアクセントに引箔を施すなど、新たな可能性を探りはじめるようになりました。


ヴィンテージの箔でしか出せない侘びた「一点もの」の味わい

あらためて、今回レナクナッタからお願いした「Yakihaku Collection」は、引箔の中でも西村さんだからこそ実現できるアイテムです。

「簡単に説明すると、焼箔とは硫黄に反応して硫化すると色が変わるという、銀の特徴を活かしたものです。和紙に漆を塗り、銀箔を貼った上に熱した硫黄をあてがうと、わずかなガスが出て変色していくしくみ。やり方は職人によってさまざまですが、ウチでは一般的なこの方法をよく使っています」

ただ、これはあくまで『新しい箔』を使用する場合のこと。今回採用しているヴィンテージの箔、古箔(こはく)は新しい箔とは異なり、何故かこの方法では色が出ないと言います。

そういった焼き方の難しさもあって、古箔(こはく)は、職人たちの間でもなかなか扱いが難しいものだそう。

西村さんは、今は亡き焼箔の研究をしていた同業の先輩に、実物を見せていただいたり話を聞いたことを参考にしながら、独自の方法を編み出したのだといいます。

「朝まで飲んで、時には熱くなって言い合いにまでなるような親しい人でした。その方が亡くなって、工房の道具などをいくつか買い取らせてもらうことになり、何度か通っているうちにヒントが見えてきたんです。そこで試行錯誤して、古箔で焼けるようになったのはここ2年くらいですね」

直接教えてもらうことはできなかったけれど、こうして職人から職人へと引き継がれた技法という点にも、ストーリーを感じざるをえません。

新しい箔であれば同じ模様を何枚も焼くことができるのですが、古箔はそれができません。それに、焼いてみないと景色が分からないんです。箔を作る際に使った漆の配合や年代によっても変わるし、その箔を作った人の刷毛目の跡などが自然と浮かび上がったりしてきて。こういった唯一無二の焼箔ができあがるのも、古箔を使った場合の面白さですね」

焼いてみないと分からない、その偶発性や、一点ものならではの個性をぜひ楽しんでほしい。あえて古箔を使用するというこの選択も、レナクナッタらしさです。

西村さんの特殊な技法によって生み出された焼箔は、まるで一枚の抽象画のよう。一つひとつ違うからこそ、選ぶ楽しみも、ご自身の空間に迎えた際の愛着もひとしおです。

また、銀を使用しているからこその経年変化もポイント。仕上げに保護コーティングを施しているので、変化のスピードはそれほど早くはありませんが、マルチスタンドは特に、手に取る頻度や置く場所によってわずかに表情が変化していきます。

「焼箔の特徴は、他の引箔とは違って染料を使っておらず、銀箔の自然な色のみで構成されていることです。青だったところが水色になってきたり黒っぽくなってきたりと、時が経つにつれて濃淡に変化が出てくるはずです」

何十年も前に作ったものが時の流れで自然と変化し、人の手によって加工され、自宅を飾る。その壮大なストーリーから感じるロマンこそ、ヴィンテージものの醍醐味です。ぜひ一生の相棒として、年月が経つにつれ「寂び」ていく古箔の美しさと共に過ごしていただきたい。Yakihaku Collectionには、そんな思いが込められています。


西陣の高度な技術を、暮らしの一部に取り入れて

今回のような古箔を用いた焼箔の他にも、引箔の技術の向上と研究に余念がない西村さん。今後の展望についても伺いました。

「自分自身が作りたいものというのは、あえて具体的には考えていません。凝り固まらずに、ウチの引箔を必要としてくださった方々とご一緒していきたいなと。それがゆくゆくどんな風につながっていくのかが楽しみなんです」

「今は職人を雇う余裕はないのですが、かつてはこの工房には職人が15人もいた時代もありました。その頃の体制で固めることができたら、私は引箔の技術向上や新しい模様の研究にもっと専念して、『引箔の魅力はこんなもんじゃないぞ』というところを伝えていきたいです

技術の継承は当たり前で、もっといいものを作っていきたいという姿勢。それこそが、西村さんが職人として信頼される所以なのかもしれません。

そんな西村さんの軸足は、あくまでも「西陣織」にあります。


引箔が使われた西陣織の帯

「西陣織は、550年以上も前からの技術が集結したものです。引箔は、そのたくさんの工程の一つ。すべてが本当に高度な技術で成り立っているので、それぞれを知ることで、西陣織の素晴らしさを改めて感じていただきたいという思いがあります。だから今回のように、西陣織の技術を現代にどう活用していけるか興味を持ってもらえるのは嬉しいですね。伝統工芸に関心のあるみなさんに、ぜひ届いてほしいアイテムです」


大河内愛加より「焼箔がたたえる“侘び寂び”の表情。その美しさの衝撃をお届けしたい」

「文化を纏う」をコンセプトに掲げている通り、レナクナッタではこれまでに“身に纏えるもの”をつくってきました。そのためテキスタイルを織る職人さん、もしくはテキスタイルに施せる技術を持った職人さんたちとのものづくりが中心でした。

そんな中、今年の冬に出会った引箔屋の西村商店さん。初めて見る焼箔の「侘び」た表情や表現の幅広さ、時間と共に「寂び」て行くストーリー性に衝撃を受け、その日からレナクナッタでどう使えるかをずっと考えていました。

よく「レナクナッタで扱うアイテムはどうやって思いつくのですか?」と聞かれることがありますが、作りたいものがあって、そこからそれに合う素材を探すこともあれば(西陣織の日傘など)、伝統工芸に先に出合ってそれを生かせるアイテムはなんだろうと考えるところから始まることもあります。

今回は後者で、箔をどうしても使いたいけど、一体何を作る?という状況からスタートしました。

本来の使い方である引箔にして西陣織に折り込めば、もちろんテキスタイルになるのですが、私はどうしても「箔そのもの」を全面に出したアイテムを作りたかったのです。

アクセサリーなども考えたものの、面積を小さくしてしまうのが何よりもったいない気がしたので、もっとも魅力がシンプルに伝わるものとして「アートパネル」、そして生活の中で使うことができる「マルチスタンド」を作ることになりました。

また、西村商店さんだけでなく、みなさんにご紹介したいのが弘誠堂さんです。襖や掛け軸、屏風、巻き物など、日本の伝統的な紙工芸を担う表具屋さんで、今回、丁寧な手仕事で焼箔を木のパネルやスタンドに表装してくださっています。

表具は、古くから芸術や宗教が盛んであった京都を中心として発達してきました。 和紙や糊などを材料とし、加湿と乾燥を繰り返していくうちに、複雑な幾度の工程を経て完成させていきます。糸を使った縫製とはまた違う、表具師による美しい始末もぜひご覧ください。

今回のアイテムは自分自身にではなく、「空間に文化を纏わせる」アイテム。技術と時間と偶然が生み出す一期一会の柄になりますので、「これ!」というものに出合った際には家の中のお気に入りの一角や仕事空間にお迎えいただけると嬉しいです。

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取材・執筆:山越 栞
撮影:小黒 恵太朗
取材・編集:吉田 恵理

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