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「茶道」は不確かな現代にこそ必要だった?その価値と親しみ方 │ 岩本 涼×大河内 愛加 対談

renacnatta(レナクナッタ)代表、大河内 愛加が伝統工芸・伝統文化を未来へ繋げる方々と対談を繰り広げる本企画。

今回のテーマは「現代の人々が、茶道を取り入れる豊かさ・価値とは?」。今を生きる人が茶道から得られるものは何なのか、その可能性について探っていきます。

対談のきっかけとなったのは、レナクナッタ初となる「茶道文化」をテーマとしたコレクション。このアイテムは、「日本文化、茶道をもっと身近に感じてほしい」という大河内の思いから2024年夏、誕生しました。


アイテムを見る(Makuake特設ページ)


大河内みずから茶道の世界に身を置き「現代を生きる人々にこそ、茶室での体験や茶の湯の精神が必要なのではないか」そう感じたのがはじまりです。

多くの人に茶道文化の魅力を届けたい。この考えを共にするのは、茶道家の岩本 涼(いわもと りょう)さんです。Makuakeのリターンにもなっている、レナクナッタ主催の茶会を担当する株式会社TeaRoomの代表を務める人物でもあります。

9歳から茶道をはじめ、国内外で茶道文化について発信する岩本さんと、その入り口に立ちフレッシュな視点で茶の道を見据える大河内。それぞれの目に映る、茶道の奥深さについて語りました。

岩本 涼(いわもと りょう)さん
株式会社TeaRoom代表取締役。裏千家茶道家準教授。21歳で株式会社TeaRoomを創業し、茶の湯の精神を軸に嗜好品の開発や販売、事業プロデュースを展開。裏千家より茶名「宗涼」を拝命し、国内外に茶の湯の魅力を届ける。(@ryoiwamoto1997



本質は相手を思う心。入り口に立って知った茶の湯の奥深さ

大河内:岩本さんと初めてお話したのは、オンラインカンファレンスの場でしたね。その後、岩本さんが京都にいらっしゃるタイミングで直接お会いして。手土産に『大河内煎茶』をいただいたことが今でも印象に残っています。「私の名前と同じお茶だ」って、驚くと同時に感激しました。

岩本さん(以下敬称略):『大河内』は、当社の工場が建つ静岡の山間の呼び名なんです。その地域と同じお名前の方に出会うとは。僕もとても親近感がわきましたし、ご縁を感じました。

今日は抹茶や煎茶ではなく、台湾茶をご用意しました。聞香杯(もんこうはい)という、小さな器でお茶の味と香りを楽しむスタイルです。

大河内:ありがとうございます。とてもいい香りですね。手土産への心遣いも、こうしたおもてなしの精神も長い茶道歴のなかで育まれてきたものではないかと感じています。岩本さんは9歳から茶道を始めてらっしゃいますが、きっかけは何だったのですか?

岩本:僕にとって、茶道は子どもの頃から居場所のひとつでした。空手も習っていたのですが、どちらも「型」と呼ばれる動作やノウハウを身に付けながらその先を探求していく。その感覚がとてもおもしろく魅力的だったんです。

ただ、茶道家となった今、稽古場はマナーだけを学ぶ場ではないと感じています。もちろん礼儀や所作が身に付くことは大切ですが、みなさんにはもっと気軽にお茶の世界に親しんでもらいたいです。

大河内:私もお茶を習い始める前は、所作や礼儀などを学べる場というのが茶道のイメージでした。まだまだ初心者ですが、今は表面的な所作の背景にある奥深い精神世界に驚かされています。

踏んではいけないとされる畳の縁は、かつてその家を象徴する大切な場所だったこと。お茶碗の絵柄をお客さまに向けてお出しすること。礼儀作法の1つひとつに、相手への思いやりの心が隠れているんですね。これまで知っていた作法の意味を理解することで、より自然に振る舞えるようになった気がします。

岩本:そうですね。お茶は作法があるから難しいと思われがちですが、そこにはもてなしの心があふれています。また、僕は作法があるからこそ、茶の湯は現代の人に受け入れやすい存在ではないかと感じています。


不確かな今を生きる現代人にこそ、茶道文化の心地よさを

大河内:「作法があるから受け入れやすい」という考えは少し意外です。その作法に尻込みする方も多いのではないかと思っていて。

岩本:確かにそうですね。本来お茶会も開かれた場であっていいはずなのに、作法を知ってから行く場所と思われがちです。

ただ、現代は生き方が多様化したぶん不確かなことも多い時代。社会の価値観がさまざまな方向へと変化していく反面、「正解」と呼ばれるものがないことに漠然とした不安を感じる人も多いのではないでしょうか。

一方で、茶道は道具を置く場所、手に取る順番、基本がすでに決まっています。先人たちから受け継がれてきた点前(てまえ)がそこにある。

決まった「型」に倣って湯を汲み、茶を点てる動作を繰り返すことで自分もどこかにたどり着けるのではないか。自分が信じられるものに出会えるのではないか。稽古のなかで、未来に向けたそんな期待感が得られるのではと考えます。

大河内:「型」を繰り返すことの大切さ。実は私も空手を習っていたので、よくわかります。頭で「型」を追う段階から無心で体が動く段階へとたどり着くことで違う世界が見えてくる。それまで繰り返していた動作の流れ、緩急の意味などが見出せて楽しいんですよね。

大人になった今、茶道で再び「型」を覚える時間に触れ、懐かしさを覚えると同時に心の落ち着きを感じました。もっと早く茶道に出会えていればと思うほどです。イタリアで暮らしている頃に茶の湯を知っていれば、より多くの人に日本文化について伝えられたのではと。

岩本:人生のなかで文化に出会うタイミングは人それぞれですよね。大切なのはタイミングに気付いた時、自分から何らかの関わりをもつことです。

それは茶道を習うことなのかもしれないし、習わずともお茶を楽しむことなのかもしれない。文化への関わり方は無限大。誰もが茶人になる必要はないんです。

日本文化に関するものを買うこと、身に付けることも関わり方のひとつです。そこに早い、遅いはなく文化との接点を大切にすることに意義があると感じます。

大河内:まさに、レナクナッタは文化とみなさんを繋ぐ接点でありたいと考えます。今回のワンピースや羽織も、日本文化や茶道を知るきっかけになればとリリースしました。ワンピースや羽織との出会いが、茶道を始めてみたいという気持ちの後押しになればうれしいです。


茶道文化と交わることで、日々の情景が彩られてゆく

大河内:今回新しくリリースした、茶道文化に着想を得て作ったワンピースと羽織も、岩本さんに試着いただけてうれしいです。本質を重んじる茶道の美意識を反映したミニマルなデザインと、茶道のお稽古着にも使っていただける利便性を追求しました。着心地はいかがですか?

岩本:胸元に懐紙が入れられるんですね。生地もやわらかく着心地がとてもいい。稽古着といわず、このままどこかに出かけたいくらいです。

大河内:ありがとうございます。ぜひ普段着としても楽しんでいただけたらと思っています。この服を纏うことで、日常に心の静寂と調和を感じていただければと。

岩本:日常に茶道の精神を取り入れるという考えに、とても共感します。僕は茶道を通して、物事の捉え方が変わってくると感じているんですよ。たとえば「ゲリラ豪雨」という言葉がありますが、僕はお茶の先生に「ゲリラ豪雨じゃなくて『篠突く雨』(しのつくあめ)ね」と教えていただきました。

まるで細い竹が地面を突くように、ざあざあと降る雨だから篠突く雨。そういわれると、煩わしかった雨が天からの恵みであるかのように思えてくる。これまで見ていた景色が、その瞬間姿を変えるんです。

大河内:おもしろいですね。茶道を通じて世界の見え方が変わってくる。

岩本:茶道は四季の移ろいと関係が深い場でもありますから、道端に咲く花や雨の後の土の匂い、日常の些細なひとこまにも自然と心が敏感になるのではと思います。

大河内:当たり前の日常がより豊かに、愛しいものになっていくような……。茶道が敷居の高いものではなく、もっと日本の生活文化に溶け込んだ身近なものであるように感じられます。


日本の美意識を分かち合う、お茶会という唯一無二のひと時

岩本:ワンピースと羽織の販売とあわせて、Makuakeでのリターンにしているお茶会は、TeaRoomが入らせていただいています。みなさんにとって、茶道に触れるよいきっかけになるといいですね。

大河内:私のルーツであるイタリアの要素を取り入れた茶会ということで、TeaRoomさんからは素敵なアイデアをたくさんいただいています。来て頂いた方にも「こんなところにイタリア要素が!?」と驚いていただけるんじゃないでしょうか。私自身も今からみなさんをお迎えするのが楽しみです。

岩本:茶道は決まりごとがあるとお話しましたが、そのなかで掛け軸や花、扱う道具、菓子などをどうアレンジするかは楽しみのひとつでもあります。日本の伝統文化である茶道にイタリアの要素を取り入れた今回のお茶会では、そのおもしろさと茶道の自由な一面をぜひ体感していただきたいですね。

大河内:レナクナッタでは、今後もお茶会を定期的に開催できればと考えているんです。伝統工芸を伝えるブランドとして、日本文化である茶道の美意識をみなさんと分かち合える場を持てたらと。

岩本:すばらしいですね。今回のお茶会は、まさにその足がかりといえるのではないでしょうか。

お茶会はその日その時、その場に居合わせた人たちの間で生まれる唯一無二の空間です。お客さまを迎える側は、その空間を作り上げるもの1つひとつに相手への思いを込める。お客さまがその心に共感することで、喜びや感動が相互に生まれ茶会でのひと時がより豊かなものになっていく。

お茶会は初めてという方も何も心配はいりません。ただ空間を楽しみ、お茶をおいしいと感じていただけたらうれしく思います。

「対立のない優しい世界を目指して」を理念に2018年にスタート。茶の湯の精神に根ざして、お茶の生産から販売、事業開発まで、文化と産業を架橋する事業を幅広く展開し、お茶を通して日本文化の価値を世界へと届ける。
・公式サイト https://tearoom.co.jp/


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執筆:永田 志帆
編集・撮影:吉田 恵理