丹後ちりめんの伝統と新たな可能性を纏う。Tango Mermaid Wrap Skirt【職人インタビュー】

2022年6月13日、renacnatta(レナクナッタ)から丹後ちりめんを使用したコレクション「Tango Mermaid Wrap Skirt」を発売します。丹後ちりめんの魅力である凹凸によって表情が変わる、新たな巻きスカートです。

Tango Mermaid Wrap Skirt商品ページ


「ちりめん」と聞くと、和柄をイメージするかもしれません。ですが今回のスカートは、ちりめんの美しさを最大限に引き出すために、くすみカラーで染め上げています。

また、今回スカートの生地として採用したポリエステルは「絹よりもぎゅっと縮むので、ちりめんのおもしろさがよく伝わります」と臼井さんは語ります。同時に、形状記憶できるためシワになりにくく型が崩れにくいのも特徴。自宅でも洗濯できてお手入れしやすく、普段使いにも最適です。

Tango Mermaid Wrap Skirtは、1300年以上にわたって織物が産み出されてきた丹後のちりめんと、レナクナッタのアプローチを掛け合わせて、新しい伝統を目指しています。

このスカートを実現できたのは、丹後ちりめんの織元である臼井織物の3代目・臼井 勇人さんとタッグを組めたからこそ。臼井さんは受け継がれてきた技術を活かして、ちりめんの新たな可能性を広げています。


Tango Mermaid Wrap Skirtの生地製造を担当され、「苦戦した部分もありましたが、おもしろい生地ができたと思います」と話す臼井さんに、ちりめんの可能性を伺いました。

1300年の伝統と、1人の挑戦

日本最大の和装絹織物の産地、京都府・丹後地方。約1300年前から織物がつくられていたと伝わっています。

雨が多くて湿度が高い丹後の気候は、絹織物の生産にぴったり。織物の生産に欠かせない水が豊富で、織物を最終製品に仕上げる京都市に近かったことも、織物の産地として栄えた理由だと言われています。

臼井織物株式会社は、丹後で1952年に創業されました。現在では分業化が進んでいる丹後では珍しく、糸をねじり合わせる撚糸(ねんし)と、糸から織物に仕上げる製織(せいしょく)の両方を手がけています。


臼井織物の工場にて。撚糸を織り込んでいる工程。


「もともと、ちりめんが好きというわけではなかったんです」

現在、臼井織物の3代目・臼井さん。以前は家業を継ぐ気はなかったと言います。丹後で仕事しようとも考えていなかったため、関東で別の業界の仕事をしていました。

しかしお子さんの誕生を機に「地元に帰って家業を手伝おうかな」と丹後に戻ってきたのは、2019年のことです。

「ちりめんの知識はゼロからのスタートでした。そのせいか、繊維業界に長く身を置いている方から見たらコストがかかったり手間だったりして、『ふつうはやらない』ことばかりやっています。何も知らなかったから、どんどん挑戦できたのかもしれません」


ちりめんの表面。「シボ」と呼ばれる凹凸が特徴。

挑戦とは、ちりめんの可能性と向き合うこと。その背景には、ちりめんへの思いの変化がありました。

「丹後に帰ってきて3年ほど経ってから、やっとちりめんの良さがわかってきたんです。毎日向き合っても3年かかったので、一般の人ならもっと時間がかかると思います。

つくり手の思いやこだわりだけでは、ちりめんの良さは伝わらない。興味を持ってもらうためには、見た目だけで『おもしろい!』と思える生地が必要なんじゃないかと」

臼井さんが見つけた、ちりめんのおもしろさ。それは、織った生地を「縮める」ちりめんならではの工程にありました。

「他の生地であれば、織っている段階から完成した状態が想像できます。でもちりめんは、織った後に縮めてみなければ、どんな表情に仕上がるかわからない。そんな製造工程が僕は好きです」


生地を縮める「精錬(せいれん)」の工程は、ちりめんならでは。

ちりめんの可能性を、もっと広げたい

ところで「ちりめん」と聞くと、どんな用途が思い浮かぶでしょうか。

丹後で織られたちりめんの多くは、京都市内で仕立てられて着物になります。着物以外だと、袱紗(ふくさ)や風呂敷にしたり、和柄をプリントして小物にしたりと、「和」のイメージに紐づく場面で活用されてきました。

そんなちりめんを生産する臼井織物にとって、主な取引先はアパレルや問屋。その先にいるお客様は、シニア層がほとんどだったと言います。

「でもちりめんって、本当はもっと広まっていい生地だと思うんです。たとえば、一色で染めるとモダンになる。他にも可能性を広げられるはずなのに、『ちりめん』の言葉が持つ『和』のイメージが先行しすぎているんじゃないかと感じています

生地のおもしろさを、他の世代にも届けられるはず──。臼井さんはちりめんを知ってもらう「入口」を増やすべく、バッグやインテリアなど、着物以外の可能性を探り始めます。

「ちりめんはやわらかいものが一般的ですが、臼井織物ではポリエステルを強くねじり合わせた硬いちりめんをつくれるんです。この技術を活かして、カーテンやテーブルクロス専用の生地を製造したり、手に取ってもらいやすい小物をつくったりしています」

ちりめんを地元・丹後の人に手に取ってもらいたいとの思いで、臼井織物を含む3社が共同開発したポーチ。丹後で知られる牛乳パックのモチーフが人気を呼び、その多くが地元で購入されている。

ポリエステルとちりめん、意外な組み合わせに思えますが、ポリエステルのちりめんは30年以上前から存在していたのだそう。しかしどこまでいっても「絹の廉価版」として扱われてきました。「でもポリエステルには、ポリエステルにしか出せない価値がある」と臼井さんは言います。

ポリエステルは絹よりもぎゅっと縮むので、ちりめんのおもしろさがよく伝わります。さらにポリエステルなら、織った生地を縮めた後に、再び広げて形状記憶することができる。この工程が生み出す美しさは、絹や他の天然繊維では実現できません」

ちりめんを縮めて広げた後、絹であれば洗濯するとまた縮んでしまいます。 しかしポリエステルの場合、一度縮んだものを広げて形状記憶できるため「極端に縮めて広げる」手順を踏んだ生地ならではの表情が実現できます。

丹後ちりめんの伝統と、ポリエステルの特性。この両方をかけ合わせ、臼井さんはちりめんの可能性を広げようと模索しているのです。

丹後ちりめんとレナクナッタが出会ったとき

試行錯誤を続けて、時には量産できないような実験的な生地も積極的に発信している臼井さん。そのチャレンジングな姿勢に惹かれたのが、私たちレナクナッタでした。

Tango Mermaid Wrap Skirtに使っているのも、ポリエステルのちりめんです。レナクナッタの代表・大河内 愛加が臼井織物を訪問したとき、ポリエステルのちりめんが織りなす凹凸の表情に惹かれたことがきっかけで、今回のコラボレーションが実現しました。

「大河内さんが最初に興味を持ってくださった生地は、もともと別の用途に使おうと考えていました。元の生地は硬くて重かったですし、幅もスカートにしては狭いので、『この生地をスカートにしたい』と言われて最初は驚きましたね」

その後、スカートに使えるように生地の改良が重ねられ、「二十越鶉ちりめん」の生地が新たに誕生しました。

この生地の特徴は、鶉織(うずらおり)が生み出す表面の凹凸「シボ」。臼井織物が得意とするシボの高さに加えて、ポリエステルだからこそ可能な「縮めて広げる」手順によってシボを大きくしています。

「通常だとちりめんは20〜30%縮みますが、今回は70%縮めています。生地の幅でいうと、140cmだった生地を40cmに縮めて、80cmに広げている状態です。幅の変動が大きいと、縮んだ生地を広げる加工も、生地を仕上げた後の染めも難しくて。対応してくれる業者さんを探すのが大変でした(笑)」

上から順番に、精錬前、精錬後、生地を広げなおし幅を調整した反物。

それでも「シボが大きいほうがおもしろいから、結果的におもしろい生地ができてよかった」と笑いながら話してくれた臼井さん。Tango Mermaid Wrap Skirtには、そんな臼井さんの思いも織り込まれています。

丹後ちりめんの表情が、スカートから日常を彩る

Tango Mermaid Wrap Skirtを形づくる、丹後ちりめんの技術。他の伝統工芸と同様に、丹後ちりめんも生産量の減少と後継者不足の課題を抱えています。

1970年代の生産量に対して、現在では20分の1以下。着物が着られなくなったことで需要が減り、後継者の不足と相まって、生産量の減少は加速しています。

それでもなお、1300年以上にわたって絹織物の産地であり続けてきた伝統は、丹後の柱として産地の誇りを支えているのです。

「歴史的に、丹後は西陣織の下請け産地でもあるので、あらゆる生地がここから生み出されてきました。今は絹織物の需要が減少したからこそ、機屋(はたや)さんが差別化を図ってさまざまな織物を織っています。生地のおもしろさはどんどん多様になってきていますね

それでも、つくり手の数が減れば、産地としてのおもしろさも減ってしまう。そのことに危機感を覚えていた臼井さんは、レナクナッタとのプロジェクトに可能性を見出しています。

「これまではアイテムを世に出しても、『臼井織物』や『丹後ちりめん』の名前が表に出ることはほとんどありませんでした。でも今回のスカートは、両方の名前を出せるきっかけになった。それは嬉しいことです。

古風なイメージを持たれやすい『丹後ちりめん』をレナクナッタが使ってくれることで、産地に新しい風が吹くんじゃないかなと思っています

ちりめんの可能性を広げる願いを込めて仕上げられた、Tango Mermaid Wrap Skirt。最後に、臼井さんだから知っているこんな魅力を教えてくれました。

「工場に西日が差し込んできてたまたま気づいたのですが、このスカートは、着る時間帯によって印象が変わります。太陽光の下で見るとシボの凹凸に光が乱反射するので、見え方が変化するんですよ。個人的には、夕陽にすごく映えるんじゃないかと思っています」

丹後ちりめんの伝統と挑戦を纏う、Tango Mermaid Wrap Skirt。ぜひお手に取って、臼井さん、そして丹後の職人さんたちの思いを感じてみてください。

Tango Mermaid Wrap Skirt商品ページ

Tango Mermaid Wrap Skirtができるまでの様子がわかる動画も公開中。ぜひちりめんが縮む様子をご覧ください。

 

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■ 臼井織物株式会社
公式サイトInstagram

取材・執筆:菊池 百合子
撮影:渋谷 美鈴
取材・編集:吉田 恵理

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